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ひとり親家庭を支える自治体の新たな試み:ワークライフバランス支援の最前線
ひとり親家庭のワークライフバランスを支える新制度「こども誰でも通園制度」とは
こども家庭を取り巻く環境が厳しさを増すなか、とくにひとり親家庭のワークライフバランスをどう支えるかは、自治体にとって喫緊の課題となっています。こうした課題に対する新たな試みとして、2026年度から全国の自治体で本格実施されているのが「こども誰でも通園制度」です。
この制度は、保護者の就労有無にかかわらず、0歳6カ月〜満3歳未満の子どもを預かる仕組みであり、従来の「就労している親だけが保育を利用できる」という前提を大きく転換しました。専業主婦(主夫)家庭や育児休業中の家庭に加え、パートタイムや不安定就労、在宅ワークなど、多様な働き方をするひとり親も含めて利用できることが特徴です。
ひとり親家庭では、仕事・家事・育児の全てを一人で担う負担が大きく、フルタイム就労だけでなく、短時間勤務や複数の非正規仕事を組み合わせるケースも少なくありません。このような「多様で不安定になりやすい働き方」を前提に、柔軟に保育を利用できる枠組みを整えることで、自治体はワークライフバランスの改善を図ろうとしています。
就労の有無を問わない利用が、ひとり親の生活リズムをどう支えるか
こども誰でも通園制度の最大の特徴は、就労状況を問わず利用可能である点です。これにより、次のような場面でひとり親のワークライフバランス改善が期待されています。
– 不規則勤務・シフト制への対応
飲食、介護、販売などのシフト制の仕事に就くひとり親は、勤務時間が週ごと・月ごとに変動しがちです。就労証明や固定利用枠が前提の従来制度では、突発的な残業やシフト変更に柔軟に対応しづらい側面がありました。就労の有無を厳格に問わない新制度では、「急な勤務」「就職活動」「資格取得のための講座」などにも利用を広げやすく、結果として安定的な就労継続を支えます。
– 心身の休息・リスケジューリングのための保育利用
ひとり親は常に育児と仕事に追われ、慢性的な疲労やメンタル不調を抱えやすいと指摘されています。新制度では、保護者が必ずしも就労していなくても利用できるため、「医療機関への受診」「役所・金融機関手続き」「住環境の整備」など、生活基盤を整えるための時間を確保しやすくなります。これは、長期的に見て就労継続を支える“下支え”として機能します。
– 転職やスキルアップのための時間確保
収入向上を目指すひとり親が職業訓練や資格取得を行う際、これまでは保育利用要件を満たせず、学習時間の確保が困難なケースもありました。新制度により、就労前段階であっても保育施設に子どもを預けられるため、転職準備や学び直しの時間を取りやすくなり、中長期的なキャリア形成を後押しします。
こうした柔軟な利用が可能になった背景には、「保育は就労支援だけでなく、子どもの健全な育ちと保護者の生活再建・心身の健康維持を支える社会インフラである」という政策的な認識の広がりがあります。
自治体財政・保育現場を踏まえた制度設計:時間単価と加算の仕組み
こども誰でも通園制度は、自治体が事業者に対し子どもの年齢に応じた給付単価を支給する仕組みを採用しています。基本分単価は、2026年度時点で以下のように設定されています。
– 0歳児:1時間あたり1,700円
– 1・2歳児:1時間あたり1,400円
利用者負担となる利用料の標準は1時間300円であり、残りは公費で賄われます。令和7年度の単価(0歳児1,300円・1歳児1,100円・2歳児900円)から引き上げられている点は、保育現場での人件費や運営費を現実的に反映し、持続可能性を高めようとする意図の表れです。
さらに令和8年度(2026年度)には、基本分単価に加え、次の8つの加算項目が設けられています。その中でも特にひとり親家庭の支援につながりやすいのが、以下のような加算です。
– 障害児加算(1時間600円):障害児を受け入れた場合に支給され、医療的ケアや個別配慮が必要な子どもを持つひとり親の就労継続を後押しします。
– 保護者支援面談加算(1回1,400円):保育施設が30分以上の面談を実施し、子どもの様子を保護者に伝えるとともに、育児の悩みに対応した場合に加算されます。
ひとり親にとって、育児や仕事の悩みを気軽に相談できる相手がいないことは珍しくありません。保育施設側に面談のインセンティブを設けることで、子どもの発達状況だけでなく、保護者の生活状況や就労上の悩みを整理し、必要に応じて自治体の他の支援策(ひとり親家庭向けの相談窓口、就労支援、生活困窮者支援など)につなげやすくなります。
このように、制度設計は単なる「預かり時間の提供」にとどまらず、保護者の相談支援や障害児支援を包括的に組み込むことで、ひとり親のワークライフバランスを立体的に支える構造になっています。
自治体の役割拡大:ひとり親支援とワークライフバランス政策の接点
こども誰でも通園制度の全国実施により、自治体は以下のような新たな役割を担うことになります。
– 保育と就労支援の“ハブ”としての機能
保育施設が保護者支援面談を通じて、ひとり親の就労状況や悩みを把握し、自治体のワークライフバランス施策(相談窓口、職業訓練、ひとり親向け給付金、住宅支援など)へ橋渡しする役割が強化されます。
これにより、保育行政と福祉・雇用政策が連携し、単発のサービスではなく、ライフコースに沿った支援の提供が目指されています。
– ひとり親家庭への情報提供・利用促進の責務
就労を問わない制度であっても、情報が届かなければ利用は進みません。自治体は広報誌、子育て支援窓口、学校・園経由の案内などを通じて、ひとり親に対して制度のメリットや利用方法を分かりやすく伝える必要があります。
特に、非正規雇用や短時間労働で忙しいひとり親は、行政情報にアクセスしにくい傾向があるため、「相談に来た人だけを対象にした案内」ではなく、積極的なアウトリーチが重要となります。
– ワークライフバランス施策との整合性確保
自治体によっては、ひとり親支援と並行して、企業向けのワークライフバランス推進、職員の働き方改革などを進めています。
保育の柔軟利用が可能になったことで、企業側が短時間正社員制度やフレックスタイム制度を導入しやすくなるなど、労働政策との相乗効果が期待されます。自治体は、企業セミナーや地域協議会を通じて「保育環境の変化」を周知し、ひとり親を含む従業員が働きやすい就労環境づくりを促しています。
このような取り組みは、ひとり親のみならず、多様な家族形態の子育て世帯のワークライフバランスを支える「基盤」となりつつあります。今後、制度の運用状況や利用データを踏まえ、自治体ごとの創意工夫や追加施策が展開されることで、ひとり親家庭を支える支援の厚みが増していくことが期待されています。
